美食名湯の宿

大切な人と出かける旅は、たくさんの良い思い出を残したいもの。なかでも旅の印象を左右するのが宿泊施設です。
今回は「Go NAGANO」編集部に寄せられた、特別な日に泊まりたいおすすめの宿から北信、中信、東信、南信で4つの宿を厳選しました。日常の喧騒から離れて心行くまで寛ぎのひとときを堪能できる、ワンランク上の宿をご紹介します。

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TOP PHOTO:©️金宇館

   

温泉街の歴史とともに歩み続ける「湯田中温泉 よろづや」

国の登録有形文化財に指定された、純木造伽藍建築の「桃山風呂」 ©湯田中温泉よろづや

山ノ内町にある「湯田中温泉」は、宿ごとに多くの源泉を持ち、泉質が異なる湯が楽しめます。温泉の開湯は約1350年前で、僧・智由によって発見されました。以降、江戸幕府によって整備された北国街道を機に発展。松代藩の湯治場として利用され、「やせがえる 負けるな一茶 これにあり」で知られる俳人・小林一茶ら多くの著名人にも愛されてきました。
寛政年間に創業した「湯田中温泉 よろづや」は、湯田中温泉の歴史とともに歩んできた老舗の湯宿です。ところが2021年、温泉地のシンボルといわれてきた木造数寄屋造りのはなれ「松籟荘(しょうらいそう)」が全焼。全国各地から再建を望む声が寄せられ、2024年の完成を目標に再建プロジェクトが進んでいます。

かえで通り沿いに立つ8階建ての本館。館内には松本民芸家具や季節の花が空間に彩りを添えている ©️湯田中温泉 よろづや

5タイプある客室。どの部屋も和室が基調となっている ©️湯田中温泉 よろづや

最上級コース料理「みすず」。1日10組限定の特別プランです ©湯田中温泉よろづや

「よろづや」といえば、2003年に登録有形文化財に指定され、日本の大浴場ベスト10にも選出された「桃山(ももやま)風呂」が有名です。神社仏閣を思わせる脱衣所から唐破風玄関を開けると、桃山調の書院造りと鎌倉形式の桝組を交えた純木造伽藍建築に御影石を用いた大きな楕円形の浴槽が目に飛び込んできます。3カ所の自家源泉から引き込んだかけ流しの天然温泉は、無色透明のさらりとした肌触り。併設する「庭園露天風呂」は日本庭園に入り込むような造りで、美しい景観を間近に楽しめます。
料理は旬と地の食材にこだわった本格会席料理で、北信濃の食の魅力を存分に感じることができます。料理や温泉で満たされたら、畳敷きの和室で心行くまで休らいましょう。

毎分253リットル、湧き出す湯の泉質は弱アルカリ性低張性高温泉。「桃山風呂」と隣接する「庭園露天風呂」は夜の時間帯もおすすめだ ©湯田中温泉よろづや

【店舗情報】

店舗名:湯田中温泉 よろづや
住所:長野県下高井郡山ノ内町平穏3137
HP:https://yudanaka-yoroduya.com
・駐車場30台(無料)

日本の西洋式ホテルの草分けで、ジョン・レノンも愛した「万平ホテル」

内装や調度品などから、社交場時代の面影を感じるメインダイニングルーム ©万平ホテル

中山道の宿場町の1つ・軽井沢宿ができた江戸時代、旅籠「亀屋」として創業。外国人が多く訪れ、避暑地・軽井沢として開発された1894年、西洋式ホテル「亀屋ホテル」に変わりました。その後、外国人から呼びやすいように「万平ホテル」と名称を変え、現在では軽井沢を代表するクラシックホテルとして知られています。
2018年に国の登録有形文化財に登録された本館アルプス館は、ホテルを代表する建物です。ツインルームの部屋は和洋の建築技術が見事に調和。バスルームには猫足のバスタブが置かれ、レトロな雰囲気が人気を呼んでいます。ほかにもアルプス館を彷彿させるウスイ館には書斎タイプやスイートルーム、アタゴ館は現代的なシンプルなスタンダードタイプの部屋とさまざま。

カラマツ林に囲まれるように佇む「万平ホテル」 ©️万平ホテル

1936年築のアルプス館の部屋。床の間を配したツインルームになっている ©️万平ホテル

メインダイニングのディナー一例 ©️万平ホテル

宿泊時の楽しみの1つである夕食は、宿泊プランによってフレンチ料理、中国料理、京会席から選ぶことができます。旅する相手やシチュエーション、リピート客にとっても、料理のバリエーションの多さは魅力的です。
「万平ホテル」を愛した著名人の一人、ジョン・レノンは、軽井沢へ訪れるたびに定宿にしていました。お気に入りはアルプス館で、その設えは当時のまま。「カフェテラス」ではジョン・レノン直伝のロイヤルミルクティーもあります。晴れた日はウッドデッキで軽井沢の爽やかな風と目の前に広がる木々の景色を眺めながら、ティータイムも良いでしょう。
避暑地・軽井沢を訪れてきた人にたくさんの思い出を与えてきたクラシックホテルで、レトロモダンな空間を楽しみませんか。

ステンドグラス:アルプス館のメインダイニングには、宇野澤秀夫が江戸から昭和の軽井沢を描いた大きなステンドグラスがある ©️万平ホテル

ロイヤルミルクティー:宿泊客以外にも利用できる「カフェテラス」 ©️万平ホテル

【店舗情報】

店舗名:万平ホテル
住所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢925
HP:https://www.mampei.co.jp
・駐車場90台(無料)
*2023年1月3日(火)夕方より大規模改修・改装工事のため休館。2024年夏にリニューアルオープン予定

“無”の心地よさと、かけがえのない“時”を過ごす「金宇館(かなうかん)」

過度な明るさはなく、ふわりと灯る照明が、寛ぎの時を演出 ©金宇館

わずか9室の小さな温泉旅館「金宇館」は、美ヶ原高原の麓の里山の景観に馴染むように佇んでいます。今ではなかなかお目にかかる機会がない歪みガラスの玄関を入ると、ほの明るいラウンジに通されます。モダンな暖炉がある空間から窓に目を向けると、一幅の絵のような石組の日本庭園が広がります。
部屋は建物が持つ歴史と美しさを活かし、季節ごとの野の花でもてなします。部屋ごとに合わせたオーダーメイドの家具は、さらに心地よい空間を創り出しています。

趣のある昭和初期の木造3階建ての館る ©金宇館

部屋:静かで穏やかな空気が流れる部屋。ふわりと灯る明かりもまた心地よい ©金宇館

主人が仕入れた、自然豊かな信州の食材と旬の味覚を取り入れた旬懐石 ©金宇館

食事を提供するダイニングは、建築当時の風情が残る大広間を板張りに改修。料理は山里の旬の恵みを存分に堪能しつつも、新たな味の発見を感じられるものばかり。盛り付ける器からも「金宇館」の美意識やわびさびに触れられるのも魅力です。
宮大工によって建てられた総ヒノキ造りの浴室棟では、初代が掘り当てた無色透明で、肌あたりが柔らかな御母家(おぼけ)の湯を堪能できます。
細部にまでこだわり、命を吹き込んだ空間とおもてなしは、宿のコンセプト「時と泊まる」を五感で味わえるはずです。

お風呂:釘などは一切使わず、新たに建てられた湯小屋。宿の風情に馴染むようにつくられている ©金宇館

お風呂:釘などは一切使わず、新たに建てられた湯小屋。宿の風情に馴染むようにつくられている ©金宇館

お風呂:釘などは一切使わず、新たに建てられた湯小屋。宿の風情に馴染むようにつくられている ©金宇館

【店舗情報】

店舗名:金宇館(かなうかん)
住所:長野県松本市里山辺131-2
HP:http://kanaukan.com
・駐車場15台(無料)

極上のプライベート空間を堪能できる「渓谷に佇む隠れ宿 峡泉」

名勝「天竜峡」の渓谷に佇む。静寂に包まれた早朝の景色が美しい ©峡谷に佇む隠れ宿 峡泉

北は天竜峡、南は浜松市北区までの広大な面積を有する天竜奥三河国定公園に佇む「峡泉」。2020年「日本の小宿ベスト10」に選定された、知る人ぞ知る名宿です。天竜川を望む8室の部屋のうち5室には冬の寒い時期にも快適に入浴できるよう開閉できる窓が付いた半露天風呂があり、1室にはプライベートテラスと五右衛門風呂が付いています。どの部屋も大切な人との時間を存分に楽しめる、極上のプライベート空間が魅力です。

天竜峡駅から徒歩5分という好立地で、天竜峡の峡谷の岬に立つ ©️峡谷に佇む隠れ宿 峡泉

室内40㎡とプライベートテラス、五右衛門風呂が付いた一番広い部屋「龍の間」 ©️峡谷に佇む隠れ宿 峡泉

メインは「信州牛の一皿」のほか川魚やジビエ、南信州産の食材が使われている ©️峡谷に佇む隠れ宿 峡泉

国定公園の自然が間近に見える浴場「翡翠の泉」と全客室から出る湯・天竜峡温泉は、「美容液のようだ」とたとえられるほど肌にすっと馴染み、柔らかな湯触りが特徴といわれています。微量のラジウムやラドンといった放射性物質を含んだ放射能泉は珍しく、療養効果が高いそう。
食事は天竜峡の岩にまつわる10の漢詩を料理で表現、食べ進めるごとに天竜峡を舟で下っているような気分が味わえます。
ほかにもジャズが流れるロビーやライブラリーもあり、プライベートを保ちながら自由に時間を過ごしたい。そんな時こそ泊まりたい宿です。

窓から差し込む日差しや揺れ動く木々の葉が心地よい浴場「翡翠の泉」。肌がしっとりと潤うと評判だ ©️峡谷に佇む隠れ宿 峡泉

窓から差し込む日差しや揺れ動く木々の葉が心地よい浴場「翡翠の泉」。肌がしっとりと潤うと評判だ ©️峡谷に佇む隠れ宿 峡泉

窓から差し込む日差しや揺れ動く木々の葉が心地よい浴場「翡翠の泉」。肌がしっとりと潤うと評判だ ©️峡谷に佇む隠れ宿 峡泉

【店舗情報】

店舗名:峡谷に佇む隠れ宿 峡泉
住所:長野県飯田市川路4942
HP:https://kyousen.com
・駐車場10台(無料)

 

特別な日に泊まりたいおすすめの宿、いかがでしたか。 各宿のコンセプトや魅力を探っていくと、自ずとその地域のさまざまな魅力にも気がつくことができます。こだわりのおもてなしを存分に感じられるワンランク上の宿に泊まって、特別な旅の思い出をつくってみては。


構成:小林隆史 文:くぼた かおり(ライター・編集者)

<著者プロフィール>
くぼたかおり(Kaori Kubota)
東京在住時は外資系CDショップの映画担当として勤務。地元・長野市に戻ってからは出版社、広告代理店で編集や営業の仕事に携わり、2009年からフリーランスに。現在は長野市信更町に仕事場「山庭舎」を構えながら日々の創作に励んでいる。趣味は中山間地域の探索、庭いじり、温泉めぐり。
https://www.instagram.com/yamaniwasha/

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